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え~まず初めに注意事項です。最近――というか、いつものことらしいけど行方不明者が出てま~す。名呑町と雨多ノ島の間、あの細い内海で小船が消えたそ うで~す、えへ。注意してくださいね~。はいはいはい、それじゃ改めまして皆さん、乾より子です――えへ。この高校では日本史を教えることになりますね。 大学では民俗学をかじったり地域史をかじったりしてました。とはいってもまだこの名呑町はあんまり知らないんだけど……えへ、調べがいがありそう。そうそう、こっちに来て思い出したけど「海を見てはいけない日」というのを知ってるかしら。 伊豆七島では一月二十四日に物忌みをして、その日は絶対に海を見てはいけないの。海難法師って話にカテゴライズされてるんだけど、その日は海から「何か」がやってくるらしいのよ。 実際、そこに住んでた友達から聞いた話だと、その日に海を見ると精神に異常をきたしたり、外出した人が死んだりしたらしいの。しかも「何か」に食い散らされた跡があったって。 海には「何か」がいる。 別に怖がらせようなんて思ってないんだからね――えへ。 さて海にまつわる伝説は色々あるけど、この町にたくさんあると言えばエビス像よね。ちょっと変わった、蝙蝠みたいな羽とタコみたいな触手を持ってる独特 の造形。やっぱりここは海運と漁業の町だから崇められてきたのもわかるんだけど、エビス信仰は日本中にあるのよね~。日本は島国だから、漂着するという伝 説が多い。神が来たり化け物が来たり――つまり海の向こうには永遠の世界、常世の国があって、そこから「人ならざるもの」がやってくる。 エビス様も同様。海に流れ着いた神だって説が濃厚。さて、ここで問題。 流れ着いたのはエビス様。では海に流された神と言えば何でしょう。ヒントは日本神話で出来損ない、見た目が醜いと言われている神。 ん? ノア? 惜しい、なんて失礼なこと言わないの、えへ。 正解は、ヒルコ。日本の国を作ったイザナギとイザナミの子。でも出来損ないだったから流された。 エビスって漢字で書くと、大体はまあ、こうかしら。『恵比寿』 でもこの町のエビスってこうも書くのよ。『蛭子』 現在、この町では独特のエビス像がたくさんあり、信仰されています。皆が信じている「それ」は、何なんでしょうね? 遠い何処かから来た醜悪な何か? 深海生物? 神様? そして内海では、昔からいつも行方不明者が出てます。町の人は慣れてしまってるようだけど。 さて、この町には「何」がいるんでしょうね。
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あまねと、まう。【登録タグ Synthesizer V あ きっと、ずっと、ぼっち。 曲 闇音レンリ】 作詞:きっと、ずっと、ぼっち。 作曲:きっと、ずっと、ぼっち。 編曲:きっと、ずっと、ぼっち。 唄:闇音レンリ 曲紹介 ボカコレ2021春にてルーキーランキング3位・TOP100ランキング15位を獲得した。 また、ぽるし氏によって同時投稿されたダンスバージョンMV「雨音と、舞う。ver.√B 」は、 ボカコレ2021春踊ってみたランキング2位を獲得した。 √A・絵 :鷲屋、MIX:かごめP、THX:椎乃味醂、宣材音声:灰咲アマネ。 √B・踊り:ぽるし・えとう・そらん(おでんガールズ)・ちっさいの。(おでんガールズ)・りう(りうこう) 振付:ぽるし、撮影・編集 :ギと。 歌詞 (配布ファイルより転載) 孤独化す思念場 百の縦並び 鬼たちが混ざって 背後糸垂らす 鳥滸がまし理想論 口だけは達者で 焦がれ居る亜勢が 生まれ変わるこの春 嗚呼なんでもいっか そうこれでもいいや それで? 離れていった 夢をみぬ者たち 嗚呼金掛きゃいっか もうなんでもいいや 引きて止まれず散った 子供へ託す 乾くこの土地が 降る雨も無く今はただ 耕す いつか来るの 待って 愛の言 吠戯いて その場凌ぎの行為が 過疎苦する 飢えた星 考察するだけ馬鹿げた現状 もうこれでもいっか そうそれでもいつか 此処が 抜けきれぬ夢景色 塞の音 懐いて 語る瓦礫舞台で 糸人形はそっと死んだ 無い糸動くと信じて待った そうそれでもいつか ここでもう一度 雨を あっちこっちどっちと 交わす 迷幇 冷象 冤導 が視窩を穿いて 誰かに届けと 送り出す始末 乾くこの土地が 降る雨も無く今はただ 耕す いつか来るの 待って 『愛逅逢哀』吠戯いて その場凌ぎの行為が 過疎苦する 飢えた星 考察するだけ馬鹿げた現状 もうこれでもいっか そうそれでもいつか 此処が 抜けきれぬ夢景色 『はいはいはいはい痛いて』語る瓦礫舞台で 糸人形はそっと死んだ 無い糸動くと信じて待った そうそれでもいつか ここでもう一度 雨を コメント 好きです! -- 名無しさん (2022-12-25 17 20 16) 名前 コメント
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鈴木聖夜くん、こんにちは初めまして! もう「くん」を付けるような歳でもないかな? 突然だけど、君のことは全部知ってるよ。君が学校の友達に何をされていたか、帰り道の店で何をしていたかね。とはいえ、僕は君の敵じゃない。味方なんだ。 君が本来の君に戻るため、その部屋を抜け出してすごかったあの時の君を取り戻すためにね。気になったら返事をくれないかな? 僕は君を待ってる。 返事をありがとう! だいぶ怪しんでたみたいだけど、返事を送っちゃったら同じさ(笑)。僕の正体について、聖夜くんは色々と考えてくれてたみたいだけど、いい線いってるけど秘密。ネットで調べても出てこないよ。 さて君がまずしなくちゃいけないのは、現状確認だ。どうして君がそうなってしまったのか。 それはね、君のお父さんが原因なんだ。君がお人形で遊んでいたら、お父さんは君をクローゼットに閉じ込めて出られないようにしただろう。君が今でも外に 出られないのは、そのせいなんだよ。人間関係を形成する大事な基盤となる人形遊びができなかった子供は、将来友達なんかできないんだ。 君はその時のことを謝らせなくちゃいけない。だって公平に見ても、明らかにお父さんのせいなんだからね。 さあ、謝らせようよ。 やあ、成功したみたいだね。ちょっとやり過ぎちゃったみたいだけど、聖夜くんがこんなに積極的になりはじめたんだから、お父さんも内心喜んでると思うよ。 さて、やっぱり山がベストだと思う。海だとかなり遠くまで行かないと砂浜に流れ着いちゃうからね。確か君のお父さん、山は人間の故郷だって言ってたしさ。 お礼なんていらないよ、人間なら当たり前だって。強いて言うなら、僕が作った像を送っておくから、それを受けとってほしいんだ。友情の証としてね。さ て、お父さんのこと、つつがなく終わったみたいでおめでとう。君はもう立派に外に出られるね。でも残念ながら悪いニュースがある。 実は君は見られちゃったんだ。あの時、見てる人がいたんだ。隣の家の佐藤順子さんだ。彼女は誤解してるから、早くなんとかしないと警察に言っちゃうかもしれない。 できるだけ急いで彼女の口をふさいでほしいんだ。頼むよ。 ――以上、連続殺人犯鈴木聖夜の部屋で見つかった手紙である。この他にも数点発見されたが、全て差出人ならびに消印が不明であった。なお、「僕」なる存在については鈴木の別人格ということで一応の結論をみた。 部屋には蝙蝠のような羽と触手を持つ像が一つ残されていたが、調べようとすると上司に「お前、クビになりたいのか」と言われたので諦めた。 どうやら「触れてはならないこと」だったようだ。
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ここは雨多ノ島水族館。 タマキは生体スーツ「ツナギ」を着て、地下プールを優雅に泳ぎ回っている。ツナギは標準形態、腕以外は人間の形を保っている。数十本ある深緑の触手を器用に押し出し、水中でブレーキをかけた。 ユーミは枝毛を探しながら、傍で見ていた。 「だいぶうまくなったわね」 水中でぼんやりしているタマキにもう一度呼びかける。 「――そうか」 ユーミは無表情な彼女をふざけて肘で突いたが、何も言わなかった。 水族館の裏口通路で深呼吸したユーミは、「関係者以外立入禁止」と書かれた扉をノックする。 「どうぞ」 「失礼します」 部屋には痩せこけた姿に白衣を着た老人がいる。まるで雪の積もった朽木だ。 「今コーヒーを入れたところだ。砂糖は五つでよかったかね」 頷くと、奇愛館長は湯気をくゆらせたカップを彼女の前に置いた。 「雨多ノ島水族館、次期館長は君に決まったよ」 「――タマキ研究員ではないのですか。熱心だし知識もすごいし」 「彼女は子供が出来たので結婚して二、三年休むそうだ」 ユーミはコーヒーを噴いた。落ち着くまで何度も胸を抑えてエホエホ咳をする。 「まずかったかね」 「まずいです。いえ、このコーヒーはとても美味しいんですけど、非常にまずいです。タマキさん自身が一番わかってるはずなのに――ちょっと失礼します」 ユーミは部屋を飛び出した。階段を一気にスッ飛ばし勢い余って棚にぶつかり試験管やビーカーを撒き散らして転がり込むようにロッカールームにやってきた。 「タマ、タマ。ハァハァ」 「タマタマ?」 肩で息をするユーミとは対照的に、落ち着いているタマキ。ツナギを脱いだばかりで全裸だ。 「タマキ。あ、赤ちゃんできたって」 「うん」 ユーミは胸倉を掴む。 「どういうつもり! 相手は? なんで言ってくれなかったのよ」 「聞かれなかったから」 ユーミは眉間にシワを寄せて口を開く。開いたが、そこから何も言葉が出てこなかった。タマキが一枚一枚服を着ていくのを眺めながら、仕切り直して尋ねる。 「どうするつもり。ツナギはせっかくできた受精卵を取り込んでしまうんでしょ」 「だから、胎児がツナギに吸収されないように変態もせずノーマルで使ってただろ。それにしばらく僕は事務仕事しかしないし」 「まだツナギは実験段階なのよ。危ないからもう絶対着ないで! もう。もう、いい加減にしてよ」 ユーミはその場に座り込んでしまった。 「何でユーミが怒る必要がある? これは僕の子だから、君には関係ないのに」 タマキは穏やかに言い放つと、白衣のポケットに手を入れ歩きだす。 「あたしは、関係ないの? タマキとも」 無造作に伸びた前髪がタマキの目元を隠していた。 ユーミは館長になった。 二人は隣あったデスクで仕事をしていたが、事務的なものを除いて会話しなかった。タマキの腹は日に日に大きくなり、ほとんど無かった胸も少しずつ膨らんでいた。 ロッカールームの鏡を見て、タマキは腹を撫でてひとりごちる。 「僕のこども、僕のこども。何にかえても守ってあげる。眠れ、眠れ。抱きしめて温かくしてあげるから」 「どうして『僕』とか言ってるのに、そんな簡単に母になれるのかわかんないわ」 ユーミも傍に立って鏡に映った。 「僕は昔から自分のことを女だと思ってるよ、君がどう思ってたか知らないけど」 「ハア?」 ユーミはロッカーを苛立ちにまかせて蹴り、逃げるように出ていった。 そして事件は起こる。世界は見えない。予兆はいつだって後になってからしかわからない。 ユーミは裸になってツナギの傍へ泳いでいき、餌をやっていた。ツナギは牛や鶏のレバーを、触手でしゅるるっと乱暴に掠め取った。 「あんた、やっぱりタマキの方が好きなんだね」 その時、ユーミの背後では水が立ち上がっていた。蝙蝠とタコを合わせたような形をした水だった。消失したと思われていた怪生物「それ」は水に同化して、今までプールにいたのだった。 ユーミは気づかず、また泳いで戻ろうとする。「それ」が襲いかかった。硬化した触手が彼女の左腕を締め付ける。ビリビリビチビチと筋肉が弾ける音が大きくなる。 ごきん。 二の腕が折れ、関節が一つ増えた。 悲鳴を聞き付け、タマキが事務室から大きな腹を抱えて走ってきた。事態をすぐに把握し、迷わずプールへ飛び込んだ。 「ユーミ、大丈夫か!」 タマキはすぐに水中でツナギを着た。身体に薄く膜が張り、両腕が触手になった。溺れ始めているユーミを、標準形態の触手を伸ばして奪い取る。そこから反動をつけてプールサイドに投げ飛ばした。「それ」は遠くなった獲物を諦め、今度はタマキへ狙いを変えた。 巨大なゼリー状の「それ」がツナギ全体を包みこんでいく。 「タマキ――ッ」 ツナギは瞬時に水に対して浸透して凝固、どうやら「それ」を体内に引き込んだらしかった。一瞬だけだったが、時間が止まったようにタマキとユーミは見つめ合う。 「ユーミ、僕はツナギで精子を作る実験をしていて、妊娠した。ツナギの中にあった、君の遺伝子から作った精子が原因だと思う。でも結果的に、良かった。僕はこどもが望めない身体だったし、君の――」 タマキは暴れだした「それ」を抑えつけた。 さよなら。 ツナギは変態を開始した。それは胎児を犠牲にすることを意味した。ユーミは叫んでいたが、言葉にならなかった。「それ」を含んだプール内全ての水をツナギが吸収し、そのツナギはタマキの腹の胎児に吸収された。 からっぽのプールで、胎児だけが残った。それは小さな口からブクブクと泡を吹き出している。胎児はリセットされたツナギだった。「それ」もタマキも彼女の子も、全てツナギに吸収されてしまったのだった。 ユーミは震える足どりでツナギに向かった。プールの底に降り、手の平サイズしかないツナギを折れていない方の手で拾いあげる。彼女は穏やかに明滅するツナギを、優しく抱えた。脈動を感じる。しゃくりあげながら、子守歌を呟いた。 ――私のこども、私のこども。何にかえても守ってあげる。眠れ、眠れ。抱きしめて温かくしてあげるから。大好きなあなたの、こども。
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雨多ノ島水族館、地下研究室。ひんやりとした空気がカナメの背中を撫でていく。 「なんで女しか駄目なんスか? こういう危ないのは男――」 カナメは強化ガラス越しに青白い光を放つ人型生物「ツナギ」を見おろして尋ねる。 「危ないのは男に任せとけって? 意外とフェミニストなのね」 隣にいる、雨多ノ島水族館の館長は腕を組んでクスクス笑った。三十後半を迎え腹が出ているのが白衣越しにわかる。 「そんなんじゃないス。ただ、ナツが危ない目に遭うのに俺が指をくわえてるだけなんて」 「嫌だ、と。その気持ち、わかるわあ。前回着用者も私の好きな人で」 「好きとかじゃ」 カナメは眉間にシワを寄せ、実験室のツナギを見る。ドアが開き、ナツが入ってきた。全裸だったので慌てて視線を逸らす。館長はマスカラを塗りたくった目を細めて静かに笑った。 「実はね。ツナギは女性にしか使えないの。子宮や胎盤や卵子と関係した仕組みだから」 ツナギはまるで中身をくり抜かれたヒトのようだった。 ナツは縦に裂けた腹部の縁を広げる。柔らかな突起物が大量にあるその内壁を見てゲンナリするが、意を決して足からヌチャヌチャと入る。 「水棲生物の遺伝子を大量に保有した生体データベースがツナギ。それは様々な水棲生物へと変化する。着用者は、早い話、一度死んで別の生物として再生する」 ツナギはナツを取り込むように、全身に薄く膜を張る。怯えたナツは叫ぼうと口を開くが、声が出ない。身体が一体化して溶け、ゲル状になる。 「その時に自分の卵子を使い自分を生む。受精卵は要請された生物の遺伝子を使い成長する」 加速度的に細胞分裂を繰り返し、すぐに両腕が数十本の触手となった人型の怪物が生まれた。表面は両生類のように分泌液にテラテラと光っている。目の無い巨大クリオネが捕食しようと触手を開放したような――形態だった。 「ツナギは、まさにヒトと他の生物とのつなぎってわけ。もちろんただ着て動くだけなら死ぬのも再生もしなくていいけど、それじゃ能力を全く使えないから」 「でも、あれはもうナツではないんじゃないスか」 例えばあれを輪切りにしても、そこにナツの姿はない。ならナツはどこにいる? カナメの言いたいのは、つまりそういうことだった。 「カナメ君は何をもってナッちゃんをナッちゃんと判断してる? 顔? 性格? 記憶? 性別?」 「全部です」 館長は腹を抱え、イスに座って大声で笑う。カナメは怪訝そうな顔つきで見ている。 「ホントに好きなんだね」 「ナツは――いい奴なんスよ」 「私は、君がいい奴だと思うけどな」 カナメは苦々しい顔をしてそっぽを向いた。 「じゃ、君はあれがナッちゃんじゃないと思うのね?」 目を閉じて首を振る。何の迷いもなく自然と出た動作だった。 「そんなこと思えないス。あいつが気にしてるでしょう」 言っていくうちにカナメは顔が赤くなった。隠すように頭を振る。 「それで俺は何をすればいいんスか」 「君はサポート。遺伝子の要請と細胞分裂のコントロール、ナッちゃんのアシスト。そして二人には」 ツナギを着たナツが顔を上げ、カナメも館長の顔を見た。 「名呑町沿岸部から深海生物の調査をやってもらいます」 カナメは夕暮れの帰り道、制服に戻ったナツに缶コーヒーを買う。ナツは受け取りながらも不思議そうな顔つきだ。 「なん?」 「なんか、悪いと思って」 低い声でカナメはつぶやいた。その声はカモメの鳴き声にかき消されそうなほど小さい。 「うん」 ナツはいつまでもそれを撫でるばかりで、飲もうとしない。 「コーヒー嫌いだったか?」 「好かんね」 深海のような沈黙が辺りを包んだ。遙か遠くで渡船がゆっくりと駅前乗り場に向かっていく。 「なんか悪い。一番危ない役がナツになった」 「別に」 ナツの表情は変わらない。しかしショートカットで日焼けしたうなじに潮風が吹いたとたん、気持ちよさそうに両腕を上げて伸びをした。 「俺なんて水上でサポートしか」 「別にいいんやない」 それでもカナメは俯いて、謝罪を呟き続ける。 「えっと――」 ナツはしばし迷って、スカートを押さえて堤防に登る。両腕を広げてバランスをとりながら言う。 「ウチは泳ぐのが好き。で、カナメはそうやってグチグチ考えるのが好きなんやろ。したらさ、ウチらは最高にツナギ使うのに向いとると思うんよ」 カナメは夕日に照らされたナツの顔を見上げる。ニッと線のような目になって笑うナツに、カナメは嬉しそうに困った顔をした。
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改札口を抜けたホームには、中央に「なのみ」と大きな字で書かれた立て札があった。傍には「←ひだりなのみ」「みぎなのみ→」とある。 その年は向かいのホームが揺らいで見えるほどの猛暑だった。電車が行き来する度にドアから爽やかな冷気が出る。マハカメリア宮はベンチに座り、風を浴びて汗が冷えるのを感じた。薄手のYシャツにはオレンジ色のストライプが入っている。 雑事で右名呑駅の先、大右名呑駅に行かなければならず、しかもそこは一日に十本もない私鉄に乗り換えなければならなかった。 適当に持ち出した文庫本を開くが、どうにもジャングルの戦争モノは読むそばから汗が落ちるほど暑苦しく臨場感が溢れすぎていた。 すぐに閉じる。 「面白いのか、それ」 低く大きな声が横から丸太のように押し出された。マハカメリア宮は気圧される。迷彩服を着た男がいた。だらだらと汗をたらし、鍛えられた筋肉は今この場で最も暑苦しかった。三十歳前後に見える。 「面白いんでしょうね、多分。ただ暑苦しくて今は読めやしませんけど」 マハカメリア宮は皮肉めいた調子で笑った。しかし男の顔は一切変わらなかった。思い詰めた表情で髪も髭も伸び放題、目の下には濃いクマがあった。マハカ メリア宮はあまり関わりたくないと思った。この暑さで汗をかいているくせに厚手の迷彩服は脱がず、一ミリも笑わないが隣の他人には話しかけるような人間。 「あのな、話をしていいか。自分は」 ほら始まったよ。何でいつも僕なんだ。マハカメリア宮は心中で独り言をたれた。お決まりの「偏見」で先読みする。 「あなた、もしかしてアレでしょう。多分あなたはPTSD(心的外傷後ストレス障害)に悩まされて眠れず、二週間くらい前に自衛隊を抜け出てきたんだ。で も親とは家出同然に別れたままで家にも帰れない。だから家から最寄の、この駅に留まってる。そして誰でもいいから話を聞いて欲しくて僕に――よりにもよっ てこの僕に――話しかけた、とか?」 男は顔を上げ、マハカメリア宮をまじまじと見つめた。 「なんでわかるんだ」 なんで? パターン入ってるからだよ。自衛隊員くずれなんて何人相談に来たことか。 「一応、教祖なんで。スピリチュアル・スキル的なものだと思って下さい」 マハカメリア宮のスピリチュアル・スキル「当たる偏見」の思考手順はこうだ。 自衛隊にしか支給されない迷彩服を着て、かなり筋肉隆々だと十中八九は自衛隊。そうじゃなきゃ知るか。加えて鞄一つ持たずにいるのは着のみきのまま逃げ出したからだ。 クマがあって時々震えがくるのは重度のPTSD症状の一つ。何かしらフラッシュバックでもして電車に飛び込まれたら厄介だよな。 それでも妙に落ち着いているのは、実家に近いこの駅に馴染みがあるからだ。だから逃げ出すのも難しい。かといってホームを出ないのも帰れないからだ。親 への反発で飛び出した奴は、自分自身の武器に頼らざるをえない。自衛隊に入ったくらいじゃ、こんな筋肉はできない。ということは彼の武器、彼のアイデン ティティはそこにあるんだろう。その辺りを褒めると、喜ぶかもね。 逆に貧弱な自分は見せたくないから、相談はなかなかできない。じゃあ僕が先取りして言わなければ相談なんかしなかったのかもしれないよなー。 ――というのは全部偏見に偏見を上塗りしただけだから、結果奇跡的に当たっても本人には言うべきじゃないよね。 「じゃあ、聞いてくれ。PTSDってのか知らんが、トラウマがあるんだ」 マハカメリア宮は近寄って彼の目を覗きこむ。彼はのけぞり、押し退けた。 「何ですか」 目の動きには、怯えと怒りがない混ぜにされた感情が出ていた。 「お前、女なのか」 マハカメリア宮はキョトンとした表情で自分の姿を確認する。どちらともとれない。笑った。 「さて、どっちだと思います」 近寄ると、お互いの汗の匂いがわかる。男は目を背けた。マハカメリア宮は、トラウマは女関係だと見当をつけた。さらに身を寄せていく。艶やかな長髪の先が彼の身体に触れた。 パンッ! マハカメリア宮の耳の横数ミリ、そこの髪が吹っ飛んだ。硝煙の臭いが立ち込める。 男は銃を撃っていた。昼下がりのホームで。 マハカメリア宮はぼんやりとした頭で「自衛隊から9mm拳銃を持って逃げ出した者がいる」というニュースを見たことを思い出した。 今、そこにある危機。人々がじろじろと自分たちを眺めた。マハカメリア宮はできるだけすまなそうな顔で謝った。 「あ、すいません。間違えて花火に火ィついちゃって。今晩やろうと思ってたんですけど、困っちゃいますよねアハハ」 まだ見ている者もいたが、とりあえず人々は黙った。 「銃とかアホか!」 マハカメリア宮は小声で怒鳴るという器用な技を見せた。 「悪い、実は」 男は静かに話し始めた。 「ある野営訓練の時だったんだ。夜、自分はアサルトライフルを持って匍匐前進してた。目の前に黒くうごめくものがあったんだ。それは手の平サイズで、よく 見ると白いのも所々にあった。そこでその姿勢のまま見張りをすることになったんだが、それは臭いが酷いんだ。この世のモノとは思えないような。自分は頭を 近づけて見てみた。そこで上官が『よそ見するな!』って頭を踏んできた。自分はそれにダイレクトに突っ込んだ。何だったかっていうと、多分かなり前に食糧 班が落としていった肉だったんだ。それが腐って蝿やらウジやら!」 彼はまた銃を構えた。マハカメリア宮は慌ててそれを取りあげた。 「まだ女が出てないけど」 「いや、自分のトラウマはそれ以来虫がダメになったってことだ」 マハカメリア宮は当たらなかった偏見に笑いが込み上げてきた。 「じゃあ女は」 「苦手なだけだ」 マハカメリア宮はいよいよ盛大に笑った。ホームの人々はいぶかしげに彼らを見ながら電車に乗っていった。 アッハハハハハ、ハァ。 「苦手なくらいで撃つなバカ!」 「だから悪いって言っただろ。ああ、そうだ頼みがあるんだが」 マハカメリア宮は何も聞かないうちに行こうと思ったが、気付けばもう乗る電車がなかった。 「教祖やってるんだろ。じゃあ泊まれるところくらいあるよな」 「リリジョン101の信者だけです」 男はマハカメリア宮の腕を掴んだ。ろくに考えもしていない。 「じゃあ入信する」 彼は金はあるんだと言い、懐から二百万ほどの札束を取り出した。逃げる前におろしてきたらしい。「名前は」 「城戸ユウキだ」 マハカメリア宮は、さて今晩はいい肉で豚しゃぶでもやるかと考え始めた。
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雨多ノ島にあった怪しい工場は地域住民の反対運動により潰れてしまった。跡地に建てられた水族館は新しいが既に寂れており、海洋生物学を専攻しているタマキが勤めていた。 「女としてどうかと思うほど身嗜みは最悪なのに、脱色だけはしてるのね」 隣のデスクで熱心に仕事するタマキを、ユーミは茶化すように言った。 「そっちはオシャレに余念がないようで。おかげさんで会計まで僕の仕事だ」 「その『僕』ってやめてくれない? 三十過ぎてボクっ娘って痛いわ」 タマキは目を見開き、資料を見せる。 「――この会計、おかしいぞ。計算が合わない。巧妙に隠されてるが、知らない金が入ってる」 「赤字よりいいじゃないの」 手を広げ、マニキュアの塗られた爪を見つめて言う。タマキは息巻いてプリントを机に投げた。 「よくないだろ。税金とか!」 ユーミはイスごと近づいて、立ち上がりかけたタマキの顔を覗き込む。 「知りたい? 知ったら戻れないわよ」 一時間後、二人は水族館地下プールの端にいた。ちゃぷちゃぷと波立つ水の中央には、多数の触手と蝙蝠の羽を持つ生き物が仄青く明滅している。 「図鑑にもない生き物かっ」 タマキの頬が紅潮する。 「本土と雨多ノ島の間は小型ボートで行き来できるくらい短いけど、それと反比例するように深さは二千メートル。何故か事故が多発してた。そこで調査艇を送り込んだら『それ』がいたってわけ」 「お金は」 「政府から出てる『それ』の軍事研究費――ていうか口止め料ていうか」 タマキは玩具を見つめるこどものように、プールサイドから身を乗り出している。 「だから、口止めのためにこうするワケよ!」 ユーミはタマキの背を押し、水中に突き落とした。途端に『それ』はエサに気付き、触手を伸ばす。 ごき。ぶちり。 瞬間、タマキは自分の小指を第一関節まで噛みちぎり、『それ』に向かって投げていた。投げられた指に触手が絡みつき、補食行動に入る。別の触手はタマキを再び追い始めたが、既に彼女は泳いでプールサイドに向かっていた。 ユーミは呆気にとられた表情で動けずにいる。そこへタマキが上がって早足で向かい、肩をつかんで揺さぶった。 「ヒィッ! ごめ」 「すごいすごいすごい! なんだアイツ。軟体動物らしいが明らかに腕は数十本! そのどれもを自分の意思で動かしてる! しかもカワイイ! こんなのを隠してたなんてズルイ。僕も研究に参加させてくれよ、なあ、お願いだよ」 こうして、タマキとユーミは同じ仕事をする仲間になったのだった。 「ねえ、なんで髪を脱色してんの?」 「昔から泳ぐのが好きで、プールの塩素で色が抜けたんだよ」 「だっさい理由」 タマキは意に介さずに、『それ』の記録を嬉しそうに眺めていた。
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俺の幼なじみに「花奥恵」という問題児がいる。授業を勝手に抜け出すは、制服を着ずに絵の具がべったり付いたツナギで通すは、フリーダム過ぎる奴だ。最 近やたらとモテだしたのは絵の才能が注目されるようになってからだ。美術の授業でしか聞かないような画家の再来らしく、美少女天才画家だとさ。当の本人は 何も変わらずに今までと同じ生活を続けてるが。 俺は――何でもなくて、時々弁当を持ってくぐらいの友達。花奥は一度描き出すと飯のことも忘れちまうから、栄養失調で倒れたことがある。だから俺は今日も弁当を作り美術室に持っていく。 「花奥?」 花奥はじっと窓からサッカーをする男子を眺めている。 「岩下くんて、かっこいいね。今度モデルになってもらおうかな」 「そうだな。筋肉の勉強になるかもな。それより、弁当食べないのか」 「今日、テレビの取材で、食べてきたんだ」 花奥はパレットに視線を落とした。赤と黄色を出して、塗り付けていく。 「そうか。何食った?」 「フランス料理」 「うまかったか」 「うん。あ、これからまたテレビの人が来るから」 俺は家に帰った。 もう俺の弁当は必要ないのか。そりゃあフランス料理と比べりゃ小さなエビフライだしな。 俺はソファにもたれてテレビを眺める。そのうち俺の学校が映った。岩下と花奥が並んで立っている。リポーターが去年優勝したサッカー部とコンクールで大賞をもらった花奥を紹介した。 理想の身長差、というんだろうか。頭一つ分、岩下が高い。並んでいると、何故だか納得できる。それからテレビは美術室を映し出した。さっき描き出したはずの絵はもう完成していた。 俺はソファからずり落ちる。 「――まだ乾いてないようですが、これは新作ですか。何でしょう?」 「見てわかりません? 私の大好物です!」 キャンバスには、ちょっとどうかしてるくらいデカデカとエビフライが描かれていた。
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